あるべき 容 を、ただ満たすだけ。
用心棒から妖畏狩りへ転身したワクラバは、己の師である総山と妖畏の長である万尾玄流斎の契約解消の場に遭遇する。
総山によって万尾玄流斎に売られ、契約を引き継ぐことになったワクラバは、声を担保として奪われ、代わりに畏気と朱塗りの刀である百鬼歯を受け取り、もう一匹の妖畏の長である無幽天留斎の暴走を食い止めるため、討伐を命じられる。また、力の大半を奪われた百鬼歯に妖畏を食ませるために、百鬼歯以外の刀を扱うことができない呪いを与えられた。
声による意思疎通ができないワクラバの元に、万尾玄流斎が角の生えた女を連れて現れる。
タキと名乗った女は、妖畏やワクラバの念を聞き取れる角を無幽天留斎より押し付けられていたため、二人は互いを利用し合い、行動を共にすることになった。
ワクラバは無幽天留斎を討ち声を取り戻し、百鬼歯以外の刀を振るえるようになること、タキは無幽天留斎を討ち角を返し、元の姿に戻ることを望みながら妖畏討伐の日々を過ごしていくが、ワクラバの中に根付いていた獣性が目を覚まし、ケダモノへと堕ちかけていく。
ワクラバに己の命を押し付けているという罪悪感故に彼の発する言葉以外は口にしなくなったタキの前に、一人の少年が現れる。纏顎と名乗った少年は、これから祭りが開かれると伝えてタキを元気づける。
彼らがいる町の隅、廃れた小さな神社の奥で、恐れの獣が目を覚まそうとしていた。
それは、たった一人の少女が齎した、長きに亘る呪いと願いによるものだった。
□ワクラバ(病葉)
元用心棒の妖畏狩り。男性。人間。二十~二十三歳。
万尾玄流斎との契約により、声を奪われ、百鬼歯を与えられた。
代わりに、無幽天留斎を討伐するまで、百鬼歯以外の刀を振るえないという呪いを付与された。
契約により会得した妖畏特有の会話術である念を使役してタキと百鬼歯と言葉を交わす。
粗暴で自己中心的な性格。
□タキ(焚)
元花売りの通弁人。女性。人間。二十四歳。
無幽天留斎との一方的な契約により、妖畏の念を聞き取れる二本角を与えられた。
念を聞き取れるため、ワクラバの通弁人として行動を共にしている。
求められれば抵抗せずに与える献身的な受け身体質。喋り慣れていないため、辿々しく喋る。
□百鬼歯(なきりば)
万尾玄流斎の嫁刀。女性。血衣の君。妖畏の母。
本体は刀だが、妖畏と百鬼歯の使い手(現在はワクラバ)には、豊かな黒髪と朱い衣を纏った女の姿が見える。
力の大半を奪われ、非常に軽い痩せ刀になっている。
自尊心が高く、褒められることを喜ぶが、使い手と妖畏意外に触られることを嫌う。
□総山(そうざん)
ワクラバの師。タキの身請け人。元百鬼歯の使い手。男性。人間。
ワクラバに万尾玄流斎との契約を押しつけ、どこかへと去っていった。
人を助けてしまうが、本人はそんな己の行動と、他者からお人好しと指摘されることを嫌がっている。
少々不遜な態度をとる。他者とよく喋るが、言葉が足りない。
□纏顎(てんがく)
無幽天留斎の婿刀。男性。奈落の泥。
くすんだ青い衣を纏った十歳ほどの少年の姿をしている。
本体である刀から離れて行動でき、他者とも言葉を交わすことができる。
常に笑顔を絶やさず、見た目に似つかわしくない精悍な青年の声で話す。
□万尾玄流斎(よろずおげんりゅうさい)
妖畏の長の一匹。無性。黒い獣。百鬼歯の所有者。
ワクラバと契約を交わし、畏気を与えている。
□無幽天留斎(むゆうてんりゅうさい)
妖畏の長の一匹。無性。白い獣。纏顎の所有者。
配下である妖畏に約定を破らせて暴走したことから討伐対象となった。
□暁國(あきくに)
ワクラバの用心棒時代の雇い主。男性。人間。
学舎で手習師匠として読み書きを教えている。とある事件により、ワクラバの任を解いた。
□櫂(かい)
暁國の学舎に通い、同居している子ども。男性。人間。
いつか用心棒になることを夢見ており、暁國とワクラバによく懐いている。
□緒花姫(おはなひめ)
紗羅御殿の主である大妖怪。女性。絡新婦。
男性のみを蝕む毒を纏っているため、屋敷に常に籠もっている。タキの元雇い主。
□瓦将(がしょう)
妖畏の一匹。無性だが、鬼面をつけ、黒い狩衣を着た大柄な男の姿で顕現している。
万尾派の妖畏。タキに正しき畏れ、際限のない世の恐ろしさを語った。
□葎(むぐら)
夜盗の一人。獣性を抱え、ワクラバを付け狙う。
□季之助(すえのすけ)
大衆食堂、大衆浴場に通う、温厚な男。
□妖畏(ようい)
人と妖怪を食う変幻自在の獣たち。「畏れさん」または「畏れのもの」とも呼ばれる。空気中に溶け、辺りを漂っているが、捕食の際には芳香を放つ肉体を纏って顕現する。ごく稀に人や妖怪に取り憑く。同族殺しができない生き物。本来は強固な契りにより、町や家といった人の住処には立ち入ることができない。
□妖畏の長(よういのおさ)
妖畏をとりまとめる高位の妖畏。必ず二匹存在する。
□嫁刀・婿刀(よめがたな・むこがたな)
妖畏の長が携えている刀。必ず両者が一振りずつ所持している。女性である場合は嫁刀、男性である場合は婿刀と呼ばれる。性別がない場合、どちらかを便宜上の呼び方として与えられる。畏れを正し、生み直すための刀。意思疎通ができる妖畏以外の生命体であれば、妖畏の長に見初められ、両者の同意の上契約を結ぶことで、嫁刀・婿刀として生まれ変わることができる。性質は、刀となった生命体の意思により変質する。
□百鬼歯(なきりば)
万尾玄流斎の嫁刀。妖畏の母。「血衣の君」。朱塗りの鞘と美しく煌めく白刃が特徴。妖畏がいなければ鞘から抜けず、抜いたとしても妖畏以外に触れることができない。妖畏であれば斬り、刃毀れ一つしない壊れない刀。現在は無幽天留斎によって力の大半を奪われ、痩せ刀になっている。斬った妖畏を食らい成長するが、斬られた妖畏は死なずに律され、万尾玄流斎の配下として再び生み直される。使い手には赤い衣を纏った女の幻覚が見える。この在り方は百鬼歯の意志によるもの。彼女の精神が揺らげば、性質は変化する。
□契約(けいやく)
妖畏の長が己では成し遂げられないことを、人や妖怪に対して依頼すること。契約を交わした者は妖畏の力を与えられ、また、なにかを担保として奪われる。
□結食み(ゆいばみ)
契約の際に、妖畏の長が契約相手の肉体の一部を担保として食らうこと。
□禁狩の約(きんしゅのやく)
妖畏の長の討伐を禁じる約定。妖畏の長が不在になれば、妖畏の統率が取れず、凶暴性が増すことから人と妖怪と妖畏の間で交わされた。
□狩免(しゅめん)
「妖畏の長の討伐を許す」という免罪符。妖畏の長によって肉体に刻まれる。
□引継(ひきつぎ)
契約を解除する方法。己の代わりを成し遂げられる者に契約を引き継がせること。
□畏気(いき)
妖畏の体内を巡る気のこと。生命力の奔流であり、傷を癒やす力を持つ。契約を交わした者の肉体にも宿るが、乱用すれば獣性を帯びて人間性を失う。
□獣香(じゅうこう)
妖畏が放つ、血腥さと甘さが混ざり合ったような独特の芳香。
□念(ねん)
妖畏同士が意思疎通の際に用いる特殊な声。本来、人と妖怪には一切聞き取れないが、妖畏の長の念は見定められた者なら聞き取ることができる。
□妖畏角(よういづの)
妖畏のもう一つの感覚器官。視覚、聴覚、嗅覚などを司るため、耳や鼻、目がない姿で顕現しても相手を知覚できる。
□ケダモノ
妖畏以外の存在が畏気を強く帯び、獣性によって変質した姿。成れの果て。恐れの落とし子。
□花摘宿(はなつみのやど)
売春宿のこと。赤い提灯と花が吊るされている建物。内部は座敷牢のようになっている。
□花売り(はなうり)
花摘宿で体を売る女たちのこと。
□幽世(かくりよ)
なんらかの要因によって変質、乖離した異界。この世の切れ端。隔絶された世界であるが、本来の世界である現世(うつしよ)と稀に繋がり、人が迷い込むこともある。
□鈴(すず)
「境界」を越えた際に鳴るもの。幽世といった異界への侵入時、また、現世への帰還時に鳴る。音の鳴り方によって危険性を判断できる。故に鈴の音は忌み音とされて畏れられている。
□朱紐(あかひも)
村境や特定の場所に張り巡らされた紐。「危険な区域」を意味する。前述の鈴と合わせて、近寄ってはならないことを意味する「幽世は鈴の領域、朱紐の内」という教えが広まっている。
□木霊(こだま)
山に住む神聖な宿り神。肉体を持たず、木々の近くに漂っている。翁や媼の面を被ることで言葉を話すことができる。好奇心旺盛でいたずら好き。血の匂いや獣香、死臭を恐れ、それらを纏うものの前にはほとんど姿を現さない。
□紗羅御殿(しゃらごでん)
とある町にある、大妖怪「緒花姫」の御殿。豪華絢爛で装飾過多。緒花姫の放つ色香は、男にとっては体の自由を失うほどの毒であるため、女しか入ることは許されない。
□三景家(みかげけ)
古くから続く妖畏狩りの家系。人畏の剪定者。女系のため当主は女であり、そのとき最も強い女は夜と月の目を持って生まれ、「三景様」と呼ばれる。女は神呪により生まれながらにして剣の才があり、他者を護らずにはいられない。神との繋がりを絶たぬようにと、男女問わず髪を長く伸ばしている。
⚠本作は、第一話から順番に書いておりません。
下記は時系列順ですが、話と話の間に書かれていない物語がたくさんあります。
突然行動を共にしていたり仲が良くなっているのはそれが理由です。
※現在書き直し等で非公開になっている作品があります。
桜宿り
煙り縋る肌
血衣が抱く路
鬼酒に蕩う
残り火は人の容
火に耽る
※成人指定描写を含む話はサイトに掲載しておりません。
いつかどこかであった気がする
おやつのようにサクッと読める
本筋にまったく関係ない茶番劇